A: 有価証券報告書等に「虚偽記載」があった上場会社が全て上場廃止となる訳ではない。
東証の上場廃止基準によれば、有価証券報告書等の「虚偽記載」に関連しては、次の①②の両方の条件を充たした場合に、上場廃止とすることとしている(上場廃止基準 2①十一)。
①有価証券報告書等に「虚偽記載」を行った。
②その影響が重大であると東証が認めた。
つまり、有価証券報告書等に「虚偽記載」があったとしても、その影響がそれほど重大ではな いと東証が判断した場合には、上場廃止には至らないということになる。
これは、上場廃止となった場合には、(「虚偽記載」の被害者でもある)一般投資家も換金機 会を大きく失う結果となってしまう。そのため、東証としても慎重に対応することとしている のである。
なお、2006 年 12 月 1 日施行の規則改正により、上場廃止に至らないような比較的軽微な「虚偽記載」に対して「注意勧告」処分を行うことができる制度が設けられている(適時開示規則 24 条)。
「監理ポスト」には、「上場廃止となるおそれがある銘柄」を割り当てることができるとされ ている(監理ポスト及び整理ポストに関する規則 6)。
つまり、上場廃止が決定した訳ではないが、その疑いがある銘柄を割り当てて、投資家に周知 するのが「監理ポスト」ということになる。
それに対して、「上場廃止が決定された銘柄」を割り当てるのが「整理ポスト」である。
逆に言えば、「監理ポスト」に一旦割り当てられた銘柄も、「上場廃止となるおそれ」が解消 されれば、「監理ポスト」から脱して通常の取扱いに復帰することとなる。
それに対して、「整理ポスト」に割り当てられれば必ず上場廃止となり、通常の取扱いに復帰 することはないこととなる。
「整理ポスト」への割当期間は、「原則として 1 か月」とされている(監理ポスト及び整理ポ ストに関する規則 8(1)b)。つまり、原則として、「整理ポスト」での取引が 1 ヶ月間継続さ れた後、上場廃止となるのである。
それに対して、「監理ポスト」への割当期間については、「(東証が)上場廃止基準に該当す るかどうかを認定した日まで」とされており、明確な時期は示されていない(監理ポスト及び 整理ポストに関する規則 8(1)a)。
基本的には、「事実関係が明らかになった」あるいは「新事実が判明した」などにより上場廃 止基準に該当するか否かを東証として確認できた時点まで「監理ポスト」に割り当てられるこ ととなる。その具体的な所要日数は、東証からのヒアリングでも、ケース・バイ・ケースという ことである。
日産自動車会長のカルロス・ゴーン容疑者らの逮捕容疑は、役員報酬を実際より過少に申告したことによる有価証券報告書(有報)の虚偽記載だった。有報虚偽記載での立件は、過去にもカネボウなどの大企業による粉飾決算に適用されてきたが、個人の役員報酬に対する適用は極めて異例とみられる。
有報虚偽記載の個人に対する罰則は、2006年に証券取引法を改正して成立した金融商品取引法で「懲役10年以下もしくは1000万円以下の罰金」とされている。12年には、オリンパスの旧経営陣らが有報に資産を水増し計上したとして、同法違反(虚偽記載)の疑いで逮捕されている。
しかし、証券取引等監視委員会によると、役員報酬の虚偽記載をめぐる立件は例がないとみられるほか、行政処分に当たる課徴金勧告も前例がなく、どのような判断が下されるのか注目される。
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