2018年、なぜ結婚しない人が増えているのか経済学的に考えてみる

結婚しない男女が増えている理由はとは?
現代人男性の約4人に1人は結婚したことがない
結婚しない男女が30年間で大幅に増加している背景は?

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 今回はライフプランを考える上で極めて重要なイベントである結婚について、経済学の視点から考えてみたい。

 世の中では、結婚しない男女が増えている。50歳の時点で一度も結婚したことがない人がどれだけの割合いるかという数字を生涯未婚率というが、2017年4月3日に国立社会保障・人口問題研究所が発表した数字によれば、この生涯未婚率は男性が23.37%、女性が14.06%となっている。つまり男性の場合、約4~5人に1人が一度も結婚したことがないということになっている。

 また、少し前だが、2011年に内閣府が発表した国民生活白書によると「生涯結婚するつもりはない」と考える人が18歳から34歳までの男性全体で9.4%、女性では6.8%となっている。1987年の同調査ではこの数字は男性4.5%、女性は4.6%だったから、この30年の間にいずれも大幅に増加、男女の結婚に対する考え方が少し変わってきている。

 また、厚生労働省の人口動態統計から初婚の年齢を見ても、2013年時点で夫が30.9歳、妻が29.3歳となっている。1980年の時点では男性が27.8歳、妻が25.2歳だったので、こちらも晩婚化が進んでいることが分かる。

 こうした現象の理由はいろいろ考えられる。例えば、長期間にわたる不況の影響で所得が増えなかったり、職についていても将来が安定していなかったりして、結婚できない若者が増えているのだと言われる。もちろん、それも大きいとは思うが、昔から若い人はそんなにお金を持っていない。

 しかも若者だけでなく、壮年期になって、ある程度収入のある人でも結婚する人が少なくなってきているわけだから、これは単に不況や所得のだけ問題ではなく、もっと別の理由もあると考えられる。

 結婚しない人が増えている理由として、考えられるのは機会費用だ。

 機会費用とは、経済学では最も重要な概念の一つだ。人生において何かを選ぶということは、その他の可能性や選択肢を捨てるということ。ところが、もし他の選択肢を選んだ場合に得られたであろう利益がどれくらいなのかを考える概念が、機会費用である。

 具体的に言うと、結婚した場合に得られる利益と、結婚しなかった場合に得られる利益がどれくらいなのかを考えること、つまりメリットとデメリットだ。もし、結婚しないことによる利益の方が大きい場合、結婚することの機会費用が大きいと表現される。

 結婚の機会費用が大きくなってきたために、結婚しない男女が増えていると考えられるだろう。

 では実際の違いを考えてみよう。

 昔は、結婚という仕組みの中に、男性と女性の生み出す価値を「交換する」という意味合いがあった。男性が外で稼いで生活の保証をする代わりに、女性は炊事洗濯といった家事全般を担当するといった具合である。

 男性側から見ると、一人でずっと生活して全ての面倒な家事を続けていくより、結婚して奥さんに家事をやってもらう方が、効率的であると考えた人が多かったのだろう。女性にしても、今よりもずっと賃金の男女差別が大きかったから、自分が稼ぎ続けるよりも、家庭で労働力を提供する代わりに、もっと高い報酬を得るパートナーを獲得する利益の方が大きかったと言える。

 こうした環境にあったから、結婚することの機会費用はそれほど大きくなかったと、みんなが考えていた。

 ところが最近では、結婚することで得られるものよりも、失われるもののほうが大きいと感じる人が増えてきたようだ。実際に、女性が活躍できる場や仕事は、昔に比べれば確実に増え、収入は必然的に昔より増えている。

 こうした変化により結婚することの機会費用は大きい、つまり結婚するよりも、しない方が有利だと考える人が多くなったのだ。

 ただ、この機会費用だけでは、まだ十分に晩婚化の説明はできないだろう。確かに結婚した後に女性が専業主婦になるのならその通りかもしれないが、現実は結婚しても、子どもが生まれても共働きで稼ぐ夫婦が増えてきている。結婚することによって女性の収入が失われてしまう、すなわち結婚による機会費用が大きくなってきたとばかりは必ずしも言えないからだ。

 そこで、もう一つ考えられるのが現状維持バイアスだ。現状維持バイアスとは、現在の状況を変えた方がいいと感じながら、現状を変えることに抵抗感があって、なかなか変えられないことを表す。

 結婚を考えた場合、好きな人と一緒に暮らすわけだから、楽しくないはずはない。しかしながら、それでも他人と一緒に生活するとなると、生活環境は独身時代と大きく変わる。当然、不安も生じるだろう。独身でいることによって得られる様々な利便性や気楽さが快適なため、それを失いたくないという気持ちが生じても不思議ではない。

 実際、昔と違ってスーパーやコンビニでは、個食に合った商品の提供が増えているため、一人でいることによる不便さを感じなくなっている。そんなことも拍車をかけているのかもしれない。

 結婚するということは、この便利で快適な環境を変えるということ。変えた結果、もっと快適でいい生活になるかもしれないが、それには結果の不確実性もあって、リスクでもある。余計なリスクを抱えるくらいであれば、今の生活を維持しようという現状維持バイアスが働いても何ら不思議ではないだろう。実際約3割の人が何らかの理由で離婚に踏み切っている。

 女性の立場から見ても、家事と仕事を両立させる苦労を考えたら、仕事に100%シフトして自分のキャリアを高めた方がいいと考え、独身で頑張るという現状維持を望む人が増えたとしても納得できる。

 それに輪をかけて、結婚することによって背負い込む義務や面倒は避けたいという心理が働くのだろう。確かに、昔と比べれば希薄化しているとはいうものの、結婚するということは、互いの面倒を見なければならない家族たちを巻き込むことになる。そういった諸々のことが面倒に感じられるため、今の状態を続けたいという感情がより強く働くのだろう。

 しかしながら、こうしたことだけでなく、ほかにも様々な理由があるだろうから、晩婚化の理由を一概に結論づけることは不可能だ。例えばよく言われるように、昔は年頃になると「おせっかいおばさん」がやってきて、結婚相手を世話してくれたりしたものだが、最近は少なくなってきているのも理由の一つだと言えるだろう。

 とはいえ、純粋に経済的に見た損得で考えても、結婚するということは決してマイナスというわけではない。

 なぜなら、昔と違って結婚した二人がそのまま働くのであれば、収入は2人分になるけど、支出が2人分になるというわけではないからだ。確かに食費は2倍になるかもしれないが、家賃や光熱費といった部分は1人でも2人でも大きく変わらない。したがって、支出は2人の生活費を合計した分の70%ぐらいになるだろう。だとすれば結婚によって経済的には好転することもあり得るのだ。

 もちろん、結婚するかしないかは個人の自由だ。長い人生を共に歩んでいくパートナーという存在は決して悪いものではないが、わずらわしい人間関係からは自由でいたいということで、独身のままいることもまた良しである。どんな選択をするかはその人次第なので、他人がとやかく言うことではないだろう。

 ただ、晩婚化によって少子化が進む傾向は、社会全体にとって決して好ましいことではないだろうから、こうした経済学的な観点から考えてみることも、少子化対策としてはヒントになるのではないだろうか?


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